世界的な箔工芸作家として知られる裕人礫翔氏は、千光寺伏島𣳾全住職と出会ったときに不思議な縁を感じました。裕人氏にとって月は出口の見えない苦境の渦中で再起の決意を燃やしてくれた存在であり、伏島住職は修行時代、日本全国の霊山を巡る中でいつも足元を照らしてくれたのが月の光だったのです。
そして裕人氏は千光寺の壁面を飾る作品づくりが始まりました。
裕人氏は今まで月をモチーフにした金箔アートは数多く創り上げてきました。しかし、あえて題材として選ばなかったのが太陽です。しかし、千光寺の作品づくりを構想する中で太陽を描こうと決心したのです。それは住職の人格や振る舞いに陽光のような輝きを覚えたからでした。
千光寺に掲げられている裕人礫翔氏の作品は、その神々しいまでの美しさに加えて、起承転結のあるストーリー性を有することも特徴となっています。エントランスで出迎えるのは水平線から昇る太陽。そして各階のエレベーターホールには月が掲げられ、階が上がるたびに満ちていくように描かれ、雲の姿も変化していきます。そして五階の本堂にまで行くと見事な満月としてきらめきを見せています。そして満ち足りたひとときを過ごし、帰途につくとき、出迎えてくれた太陽は水平線に沈む夕日のように穏やかな表情で送り出してくれます。千光寺を訪れる人に大宇宙が紡ぐ物語を感じ、清々しい時間を過ごしてほしい。そういった想いがそのストーリーには込められています。
千光寺が本尊としている大日如来は太陽を象徴しています。そして太陽と表裏一体の存在として数多の光で亡き人を包み込んでくれているのが月です。その意味において千光寺において太陽と月の作品を展示することは仏教的な意味も有しています。また名だたる古刹が、その空間において仏教芸術を飾るように、千光寺では優れたアートで仏の空間を荘厳することで新しい寺院空間の在り方を社会に提案しています。